内視鏡症例:ボストン・テリア 6歳 オス 大細胞型胃リンパ腫 転移
主訴は「2日に1回ぐらい嘔吐がある」との事でした。
検診時に詳しくお話を聞くと、朝食後には嘔吐があるが夕食時には嘔吐せず、吐物内容も食渣の一部という事でした。
腹部圧痛も多少ありましたが、血液検査などは鎮静が必要なほど元気があったので、まずは胃腸薬の内服で1週間経過観察としました。
1週間後に嘔吐は2日1回あったものの腹部圧痛は無くなったため、胃腸薬を変更し、嘔吐があれば1週間後には精査を行うという事をお伝えしました。
胃腸薬を変更して1週間後、「便が最近黒くなった」というお話から消化管出血を疑い、血液検査をさせて頂きました。
この時点でも嘔吐回数は変わらず、ドッグフードのみの場合に嘔吐があり、白米や水に関しては嘔吐はありませんでした。
血球検査ではヘマトクリットは44%と正常でしたが、白血球が少し高い印象がありました。
生化学検査ではCRPのみが高値を示したため、膵炎は除外し、その他の精査を行いたいと考えましたが、犬の性格上鎮静が無ければレントゲンなども行う事が出来ないため、飼い主様と相談した上で、今回は血液検査のみに留まりました。
そして今回は、抗生剤や消炎剤などを追加処方し、数日間改善が見られない場合は内視鏡を行う事をお伝えしました。
血液検査から7日後には嘔吐回数は減少しましたが、出血を伴うような茶色の吐物があり、黒色便が多くなってきたことから胃の出血を考え内視鏡検査に承諾して頂きました。
麻酔前に血液検査行いましたが、この時点の血球検査でヘマトクリットが27%を示し、貧血も進行していました。
内視鏡検査画像
胃内は全体的に出血痕や潰瘍が多数認められ、腫瘍性らしき病変が小彎部に確認されました。
そのため小彎部や幽門部のバイオプシーを行い、早急に病理組織検査に提出しました。
また、食道や十二指腸に関しては病変はありませんでした。
ですが内視鏡の結果より固形物の摂取は困難と考え、内視鏡検査2日目よりゼリータイプの流動食を開始し嘔吐が無かったため翌日には退院し、病理組織検査結果を踏まえて今後の治療を計画していく事をお話ししました。
検査より4日後の結果では「腫瘍性病変」と診断されました。
胃粘膜本来の組織構造は破綻し、大部分が壊死に陥っている可能性がありました。
ですが、バイオプシーのため検体部位が少なく、今回の検査では腫瘍の種類までは特定に至りませんでした。
腫瘍が確定した事により、腫瘍の種類の特定と状態改善のための早期に手術をするお話しを進めていましたが、診断より2日後にご自宅にて亡くなりました。
その後、今回の腫瘍進行の速さや死因の追求、今後の診療での勉強のために飼い主様に病理解剖させて頂くことをお願いしました。
病理解剖の結果は腸間膜や膵臓、胃まで転移を生じた「リンパ腫」でした。
今回の腫瘍細胞は赤血球の約2倍の大きさの核を持つため、大細胞型リンパ腫と診断されました。
また、腸間膜やリンパ節においても腫瘍細胞は活発に増殖を繰り返していたため、進行も早いと考えられます。
亡くなった原因は膵臓や胃が腫瘍が原因で壊死を起こし穿孔した事と飼い主様にはお話しさせて頂きました。
どの時点で腫瘍が発生したのかは不明ですが、嘔吐症状で来院されて、その後1カ月で亡くなってしまい、初診の段階で鎮静を行い超音波検査なども行っていれば、もう少し早く原因の追究は出来たのではないかと悔やんでいます。
ですが、今回私に病理解剖で勉強する機会を与えてくれたこのコと、開院時より当院に通って信頼してくれた飼い主様には本当に感謝しています。
「胃のリンパ腫」は珍しい病気のため、現在はどういった抗がん剤を選択していくかなどの勉強を他の獣医師ともさせて頂いています。
今回の症例で今年最後ですが、今年より「症例紹介」を始めて、ほぼ毎日更新し、140の動物たちの病気を紹介させて頂きました。
全ての病気を治せたら良いとは思いますが、自分自身も力不足を感じたり、飼い主様が期待する結果が得られない事も時にはあったと思います。
この「症例紹介」のきっかけも、様々な病気や症状を皆に知って欲しい事と自分自身の勉強も兼ねて始めました。
現在も病理組織検査や病理解剖へのご理解は得られにくいですが、その結果がそのコの治療に繋がったり、他の動物達の治療にも役立ちます。
他の獣医師の方にもこの症例紹介でご意見いただきますが、治療法も答えが一つでは無くて、獣医師が10人居れば10通り答えがあると思っています。
自分の今までの経験や勉強したことが来院される動物達の病気を治したり、飼い主様達を笑顔に出来るような答えの一つになる様に来年も精進していきたいと思いますので、飼い主様方には勉強や経験する機会を頂けたら幸いです。